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WACCの水準(上場企業/非上場企業の比較)

DCF法には、重要な計算要素としてFCF(フリー・キャッシュ・フロー)とWACC(加重平均資本コスト)があります。
事業計画が高めの設定であればFCFが大きくなり、そこから算定される事業価値も高くなります。
同じようにFCFを割り引くWACCが低ければ事業価値は高くなります。
今回はこのWACCの水準は、非上場企業と上場企業で違うのかという点についてまとめて記載致します。

まず、WACCはWeighted Average Cost of Capitalという名前の通り、株主資本コストと負債資本コストの調達額に応じ割合で加重平均された資本コストのことです。
つまり、株主と債権者を含む投資家が「要求する収益率」あるいは「期待する収益率」のことをいいます。
また、調達する企業側としては、事業上の投資意思決定の際のハードルレートの一つとして考えることができます。

■負債資本コストについて
負債資本コストは企業が借入する際の利率であり、対象会社の現行の借入コストを参照することもあれば、同格付けの社債利回りを参照することなどがあります。
個人的な感覚でいえば、実務上はBBB格の社債利回りを参照するケースが多いように思います。

■株主資本コスト
また、株主資本コストの計算式は次の通りで、①国債などの無リスク資産からのリターンに加えて、②株式などリスク資産に投資するための追加リターンを考慮したコストとなります。

①リスクフリーレート+②資本コストプレミアム×β(+③個別リスクプレミアム)

■WACC水準
上場企業と非上場企業でこの期待収益率であるWACCの水準は異なるか?という点に戻ります。
この点、非上場企業といってもベンチャーもあれば成熟企業もあります。

ベンチャー企業であれば、いわゆるVCレート(次回コメント予定)というものがあり、高い割引率を適用することとなります。
大枠としてはこれからビジネスを確立あるいは拡大していくような会社へ投資するベンチャーキャピタル(VC)は一般的な水準より高い収益率を期待しているというところです。
この点は感覚的にもその通りかと感じます。

一方で、成熟企業においてはそうではないと考えています。
というのも事業内容・会社規模・利益水準等が同一の会社であれば上場・非上場の違いだけで、投資家の要求する利益率は変わらないはずであり、
対象会社と同業種の上場企業の中から類似会社を選定する過程を通じて株主資本コストを算定し、負債資本コストとの加重平均でWACCを算出することとなります。

ただし、上述のとおり③個別リスクプレミアムを考慮する場合があり、規模が小さいのであればサイズリスクプレミアムを乗せることもあります。
また、非上場企業ゆえに事業計画の達成可能性が不明のため不確実性リスクを考慮すべきという主張もあるかもしれないですが、それは事業計画に織り込むことを検討するべきだと考えます。
少なくとも不確実性リスクをサポートできる根拠を探すことは難しいと思われます。

以上となります。
非上場企業だからWACCが高くなるというわけではないというのが今回記載したかった内容となります。

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